JSEM電子音楽カレンダーでは、担当の川崎弘二がカレンダーに掲載されている各種イベントをご紹介していきたいと考えております。
2014年9月のカレンダーから、今回は、ギタリストの笹久保伸さんと、作曲家の藤倉大さんによるコラボレーションCD「マナヤチャナ」(9月17日発売)をピックアップいたします。
このCDでギターを演奏された笹久保さんに、CD「マナヤチャナ」についてのお話しを電子メールでお伺いしました。(担当:川崎弘二)
■藤倉大さんとはFacebookで交流を持たれるようになったとのことですが、それまでに藤倉さんのことはよくご存じだったのでしょうか。
「藤倉大」という作曲家は日本のみならず海外の音楽シーンで有名なので知っていましたが、藤倉さんの音楽の事をよく知っていたわけではありませんでした。
実は今もあまりよく知らなくて、まだお会いした事もありません。もちろんCDは数枚聴いていて、かっこいい曲を書く人だなと思っていました。
■藤倉さんとコラボレーションをすることになった経緯についてお話しいただけますか。
藤倉さんはギターソロのために「スパークス」という曲を書かれているのですが、それはとても短い曲なので、もっと長いギター作品はないのかなと思い、2014年のある日「他にギター作品はありますか?」みたいな質問メールをしました。
結局他にギターソロ作品は書かれていなかったのですが、チャットで色々な話をしているうちに、「単に作品を演奏をする」のではなく、コラボで何か作ろう、という方向に話が進んでいきました。
■CD「マナヤチャナ」はどのようなプロセスで制作されたのかお話しいただけますか。
藤倉さんはロンドン在住で、僕は秩父在住なのですが、制作は一切楽譜を使わずにやろうという事になりました。
まず最初に僕が秩父のスタジオで短いギター演奏(15秒〜20秒くらい)を録音し、それをメールでロンドンに送り、様子をみながら制作を進めよう、という話しでしたが、僕はとりあえず30分とか60分とかをパパッと録音し、それをロンドンにバンバン送りました。
その録音では、特殊調弦、プリペアドギター、変則的なリズムなど、変わった事をしました。しかし藤倉さんはその60分の録音の2秒くらいを使って音楽を再構築というか、作曲を始めました。
僕のギターを基に藤倉さんがロンドンで作った音源を秩父に送ってもらい、その音源の上にまた僕が秩父でギターを録音して、というように、曲によっては数回音源を送りあいながら音を構成していきました。
このアルバムで使用されている音はすべて僕が弾いたギターの音だけです。とはいえ、音は再構成されているので、何をどうやって弾いたか自分でも全然わかりませんし、二度と弾けませんが・・。
この作品では藤倉さんが他の曲の作曲をする目的で、IRCAMが藤倉さん専用にプログラミングしたソフトを使って制作しているのですが、それもあってかちょっと独創的な仕上がりになっていると思います。
いわゆるギター音楽でもなければ、いわゆるエレクトロニカ音楽でもなく、かといって現代音楽でもなく、行ったり来たり、出たり入ったりしながら、色々裏切ったり、という感じに未知の世界を漂っています。
そもそも僕自身、カテゴライズされにくい音楽活動をしていて、一方の藤倉さんも表向きは「現代音楽の作曲家」として知られていますが、デイヴィッド・シルヴィアンとコラボしているくらいなので、普通の現代音楽の作曲家より広い視野を持った音楽家だと思います。
■日本とイギリスという距離は、コラボレーションに影響を及ぼしましたでしょうか。
それは何とも言えませんが、藤倉さんと僕はまだ一度たりとも会った事が無く、直接顔を合わせて話した事もなくて、でも会う前にコラボをしてCDが発売されている、これは完全に偶然の成り行きではありますがユニークだと思います。
むしろ実際に出会っていたらコラボしていないかもしれないですよね、なのでこのまま一生会わないでコラボが続いたら面白いなあ、とたまに思ったりします。
■笹久保さんのギター演奏の録音は、藤倉さんによって電子的に「トリートメント」されたようです。藤倉さんの「トリートメント」についてどのような印象を持たれましたか。
最初は何をどういう風に作るか明確に決めていなかったので、僕の録音をどのような音にするのだろう、という興味がとてもありました。 僕自身藤倉さんにたいして「こういう音にしてほしい」というようなイメージや要求も全然なくて、純粋に「どうなるのか」という強い興味だけありました。
コラボは相手に遠慮も要求もせずに個々が好きな事をやって、それでいいものができないのであればコラボする必要はないだろうと思います。藤倉さんが最初に送ってくれた音源を聴いたときは、「あ、これは自分では想像もできなかった音になったな、自分には作れない音楽だな」と思いました。なので、コラボできてよかったですし、とても勉強になりました。
■今後も電子技術を援用した制作を続けようとお考えでしょうか。
とても興味はあります、現代音楽的なアプローチの電子音楽だけでなく、ギターを使ったエレクトロニカのフェネスみたいな人もいますし、やれる事はたくさんあると思います。ただ、僕は自分で電子技術を駆使した仕事はできないので、電子技術を専門にする人との共作に興味があります。
■CDの発売を楽しみにしております。どうもありがとうございました!
こちらこそありがとうございました! ぜひCD聴いてください!
◎CDのご案内
笹久保伸+藤倉大「マナヤチャナ」
CD / Sony Classical / SICC-30176 / 2014.09.17発売
http://www.amazon.co.jp/dp/B00L9EL898