JSEM電子音楽カレンダーでは、担当の川崎弘二が、カレンダーに掲載されている各種イベントを「今月のピックアップ」として月イチでご紹介しております。
2015年10月に開催されるイベントから、今回は10月24日(土)に、瑜伽神社(奈良)にて開催される「ひびきののりと 瑜伽神社 電子音楽奉納コンサート vol. 2 シカトキイタ」をピックアップいたします。このコンサートに参加される大塚勇樹さんに電子メールでお話しをお伺いしました。
ひびきののりと 瑜伽神社 電子音楽奉納コンサート vol. 2 シカトキイタ
日 程:10月24日(土) 1回目=13:30~14:30 2回目=15:00~16:00 3回目=16:30~17:30
会 場:瑜伽神社(奈良)
料 金:1,500円、学生1,000円
◎インスタレーション
天野知亜紀、牛山泰良、関 光穂、山田あい子
◎コンサート
大塚勇樹、永松ゆか、野津圭子、野呂有我、檜垣智也、藤田将弥、山下裕美、Paul Ramage、suzukiiiiiiiiii、trorez、Zhaogu Wang
◎アクースモニウム演奏
大塚勇樹、永松ゆか、檜垣智也、山下裕美
http://hirvi-acousma.tumblr.com
■大塚さんが電子音楽、クラブ・ミュージック、エレクトロニカ、ノイズなどの音楽家として活動されるようになった経緯についてお話しいただけますか。
中・高と吹奏楽部にいたのですが、コンクールの全国大会へ出場したり自分の歯の問題もあったりする中で、自分としては「やりきったな」という意識があったのですが、それ以上に一つの楽器を修行僧のように極めていくことよりも、どこまで行ってもその楽器固有の音色しか出ないことの方に対しての失望があり(演奏家の皆さんすみません。。。)、そのため、吹奏楽部でも任されていた録音や音響の技術を、本格的に学べると思って大阪芸術大学へ進学したことがきっかけです。
後は高校の時にブンブンサテライツやアクフェン、大学入学直後にピエール・アンリやドニ・デュフールといったアーティストに出会ったことが大きいです。自作自演が出来るというのも、吹奏楽と違って魅力的に映ったのかも知れません。
■「ひびきののりと 瑜伽神社 電子音楽奉納コンサート」は、昨年の2014年10月25日に第一回目が開催されています。このときは「この世界から消えた音」が共通のテーマとなり、34名の作曲家による3分間以内の作品が上演されています。このような形式によるコンサートが開催された経緯を教えていただけますか。また、こちらのコンサートで上演された大塚さんの「Ghost Dubbing」は、その後、世界各地で上演されています。こちらの作品についてもお話しいただけますか。
「ひびきののりと」の開催のきっかけですが、前年まで毎年開催していたアクースマティックのイベントの方向性が、会場の確保やそれに伴う企画の方向性といった問題で、手詰まりになった感じがあったため、グループ名も企画名も刷新し、これまでのように「アクースモニウムだから珍しい・すごい」という価値観よりも、単純にいちイベントとして世間に対して挑発的な企画が出来ればということでhirviのメンバーと共に発案したものです。
作品を複数の作家から募り、コンサートで上演し、bandcampでフリー配信し、海外へも積極的にプロモーションをかけていくという流れが上手く出来上がってきているように思いますが、その中で僕の作品も各所で取り上げてもらっています。
「Ghost Dubbing」では、何種類ものマイクによって、様々な時間・空間で録音された「無音」をノーマライズして得られたノイズと、アウトボードのシミュレーション系プラグインから得られるヴィンテージ機材特有のノイズを、それぞれ一つずつの音色として捉えて制作しています。
これらのノイズは音響機材を通してしか聴く(観測する)ことができない上に、過去・現在・未来と絶えず周囲の空間や音響機材の中に存在し続けている亡霊のようなものであり、またリバーブやコンプレッサーでは得られない固有の空間の奥行きや気配、歪み感というものを内包しています。
ただし、通常の録音に於いては基本的には忌避される悪霊でもあり、除去するための魔法のようなプラグインも多数存在しています。故に、これも一つの「この世界から消えた音」ではないのかと解釈しました。このような逸脱したノイズが僕は好きで、クラブ・ミュージックやエレクトロニカを作る際でも、トラックの背後に忍ばせて空間演出の一つとして使っています。
■2015年2月には、アンスティチュ・フランセ関西 稲畑ホール(京都)にて開催された「Contemporary Computer Music Concert 2015」において、「Arcane Awe」という作品が初演されています。この「Arcane Awe」という作品について、また、大塚さんの創作においてアクースモニウムで演奏される作品に、特有のアプローチなどがございましたらお話しいただけますか。
この作品では膨大な量のハードシンセとエフェクターを使い、それらの音色を作りこんだ上でその音色だけを10分〜20分と延々録り貯めたものをコンピューターに取り込み、より徹底的に音色と音響を追い込んだものを大量に重ねて出来上がったものです(時にはプラグインも発振させて使いました)。
音楽としての構造的な問題も「この音色が何秒続けば気持ちいいか」ぐらいにしか考えていません。「Arcane Awe」にしろ「Ghost Dubbing」にしろ、何故音色にこだわるのかというと、単純に音色へのフェチがあるというのもありますが、それと共に、これまでに若手の作曲家に対して「一つの音色の力だけで押し切ろうとして失速する」という評価を何度か目にしてきた中で、「音色の力で突破することの何がいけないのか」という反抗心と「押し切れないような弱い音色じゃ駄目でしょ、もっと攻めようよ」という同世代の作曲家への残念さが僕の中にずっとあり、そこに対する自分なりの挑戦として試行錯誤しながらやっています。
ここ2〜3年のアクースモニウムで演奏するための作品は基本的にこのようなアプローチで制作していますが、超低域のパンニングや擬似サラウンド系・エキサイター系のプラグインを使って位相のトリックを多用した結果、年々アクースモニウムでの演奏には不向きな作品になっているのが悩ましいところです……。
■大塚さんは「Route09」という名義でも活動しておられます。本名での作品発表と、Route09名義による演奏活動との違いについてお話しいただけますか。また、nu thingsで開催されたイベント、「シンセ温泉!」、「ベアーズ電子音響祭」などの催しで、Route09としてどのような演奏をされたのかお話しいただけますか。
本名ではアクースマティック作品の制作とアクースモニウムの演奏を、Route09名義ではクラブ・ミュージック、エレクトロニカ、ノイズ等の制作とラップトップやハードウェアを使ったライブを、という具合に使い分けています。
nu things(現Environment 0g)ではオーナーで音楽評論家の阿木 譲氏には何かとお世話になっていて、一時期は氏の影響もあってずっとダブ・テクノ的な音を作ってばかりでしたが、お陰でCCMC2012では「コンクレート+インダストリアル+ダブ」を意識して作った曲で賞を頂き、フランスで作品を上演してもらうことも出来ました。その方向性は、ここ数年の先端的なアンダーグラウンド・ミュージックのトレンドとも合致しているように思います。
「シンセ温泉!」や「ベアーズ電子音響祭」ではハードウェアだけで得られる音色による即興演奏をしたのですが、それはつまりコンピューターでエディットするより前の素材の音だけでどこまで勝負できるかというチャレンジでもありました。今後の制作にも繋がるヒントを多く得られたので 良かったのですが、お陰で機材も増えに増え、自宅のスタジオは更に狭く…… 本当はモジュラーシンセにも手を出したいんですけど。ちなみに日本のREONというメーカーのDriftboxというシンセサイザーが凄く良いのでオススメです。
■2015年10月24日(土)に、瑜 伽神社(奈良)にて開催される「ひびきののりと 瑜伽神社 電子音楽奉納コンサート vol. 2 シカトキイタ」というコンサートについて、全体的な企画の内容、そして、大塚さんが発表される作品についてお話しいただけますか。また、コンサートの みどころ、ききどころなどあればお教えいただけますか。
今年の「ひびきののりと」では、共通のフィールド・レコーディング素材を使用したアクースマティック作品の上演と、インスタレーションの設置を行います。
素材の録音には、鹿の頭のオブジェをバイノーラルマイク用のダミーヘッドとして用いた「鹿ノーラルマイク」を奈良公園にいる鹿の中に紛れさせることで、「鹿の目線と耳で捉えた奈良の音」を録ってきました。バイノーラルマイクこそ人間用のものですが、やはり人間とは違う音の聴こえ方がしますし、むしろ人間よりも環境ノイズに対する没入感があるようにも思います。
また、全員が共通の素材を使うので似たような音の作品が揃うのか、コンピュータ上でプロセッシング しまくった過激な音がくるのか、鹿の鳴き声だけピックアップした脱力系の作品が出てくるのか…… 全ては未知数ですが、僕自身とても楽しみにしています。
僕の作品はまだ制作途中なので何とも言えないのですが、基本的にはこれまで通りで、素材の中に新しい音色を見つけては磨きまくっているところです。
本公演は奈良県大芸術祭の公式イベントとしてプログラムされており、当日は瑜伽神社の近くの奈良国立博物館で恒例の正倉院展が初日を迎えます。今年は一時間程度のコンサートをAKB48ばりに3回公演でやりますので(内容はどの回も同じです)、奈良への観光がてらご都合の良い時間に我々のイベントへ足をお運び頂き、秋の奈良で気持ちの良い時間を共に楽しめたらと思います。
■今後の活動のご予定について教えていただけますか。
丁度このインタビューの原稿を書いている時に、知り合いの映像制作会社から楽曲提供の依頼が入ってきたところです。笑
ライブの出演やマスタリングの依頼などは当分予定がないので、上手く物欲をコントロールしながら自分のアルバム制作に注力したいと思います。
■ますますのご活躍を期待しております。この度はどうもありがとうございました!