JSEM 電子音楽カレンダーでは、担当の川崎弘二が、カレンダーに掲載されている各種イベントを「今月のピックアップ」として月イチでご紹介しております。
今回は、2016 年 5 月 10 日にリリースされた委細昌嗣さんの CD「Title fit I felt it」をピックアップいたします。委細さんに電子メールでお話しをお伺いしました。
委細昌嗣 Title fit I felt it
MISAI001 2016年05月10日発売
http://diskunion.net/jp/ct/detail/1007079883
■委細さんのプロフィールには「2010 年までジャズギターを菊地 晃氏に師事。現在、商業音楽理論(バークリーメソッドによる和声理論)、並びに多層的律動構造(ポリリズム)を菊地成孔氏に師事」とあります。これまでの音楽家・作曲家としての歩みについてお話しいただけますか。
学生時代は、友人のバンドでギターを演奏していましたが、それまで音楽を習ったり勉強をしてきたことがなく、自分の演奏に限界を感じまして、大学卒業後にジャズギターを菊地 晃氏に師事しました。
ジャズにもともと興味があったわけではありませんが、たまたま入ったスクールがジャズスクールで、そこからジャズに興味を持ちました。そのころからフリージャズや現代音楽に興味をもち現在のようなスタイルの音楽製作を少しづつですが開始いたしました。
その後、私の興味が音楽を演奏するよりも作品制作の方に興味が湧いてきまして、本格的に音楽理論を勉強したいと思い、2013 年より菊地成孔氏に音楽理論を師事しております。
homepage
http://star.gmobb.jp/m.isai/
soundcloud
https://soundcloud.com/masashi-isai/
■ 2013 年にはリュック・フェラーリのテープ・アーカイブを使用したコンクール「プレスク・リヤン賞」に応募された作品「 Oto no tegami 」が、審査員の椎名亮輔さんによると「友人の声による鉄道のアナウンスについて、何を言っているかわからないが、それを軸に音楽がよくまとまっていると高評価を得ていた」とのことです。このコンクールに応募された経緯や「 Oto no tegami 」という作品についてお話いただけますか。
まずリュック・フェラーリさんの事は、お亡くなりになられた後にリリースされた CD で知りまして、本当に素晴らしい作曲家だと思っていました。
その時期くらいにプレスク・リヤン協会日本支局の twitter でコンクールの事を知り、作品を是非聴いて頂きたいと思い応募致しました。
私の作品「 Oto no tegami 」は、リュック・フェラーリさんのアーカイブ音源を彼からの音の絵葉書、手紙と考え、彼に返信をするような作品にしようと考えて、タイトルを「音の手紙」にしました。
手紙なので、何処から送られたのかという「音の手紙」の消印というか切手のようなものが必要だと思い、作品の最初と最後に私の町の音と最寄り駅のアナウンスを入れました。
本来なら本物の駅のアナウンスを使用したいところでしたが、権利関係上の問題で鉄道会社から許可がおりず、鉄道会社勤務の友人にアナウンスをお願いしました。以上のような経緯で、私の作品には友人の声が入っております。
「プレスク・リヤン賞」に応募してリュックさんの音源に触れることが出来たのは、本当に貴重な経験で勉強になりました。応募して本当に良かったです。
■今回発売された CD「 Title fit I felt it 」は、CD を利用したメディア作品のようです。CD には 97 のトラックが収録されており、1 トラックごとに「アルファベットと日本語の文字、平仮名」が割り当てられ、再生の順序によって、曲が生成されるという仕組みのようです。このようなメディア作品を構想されるに至った経緯や、この CD 作品についてお話しいただけますか。
私が今まで製作しておりました作品は、パソコン上のソフトで管弦楽等の音を使用し製作された、ただ録音されるだけの作品でライブ演奏を行えないものばかりでした。
そのような際に本で読んだクリスチャン・マークレイ氏の演奏に対するインタビューで「レコードに録音された素晴らしい作品に敬意をもっていますが、録音された音楽は剥製と同じで生きたものでないので、音楽を生きた形で使用するために演奏している」というような内容の記事に感銘を受けました。それから自分なりに録音物の剥製化から如何に音を開放するかを考え始めました。
私は今年 37 歳で、日常において音楽作品に接するときは、CD で接してきた世代です。なのでレコードでもなく、mp3 でもなく CD というメディアでしか表現できない作品を製作したいと思い製作しました。
その方法論として、以下のような、この作品の試聴方法に3つの方法を作りました。
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①全ての曲で1曲。
1曲目から最後まで聴くと CD のタイトルの「 Title fit I felt it 」という曲になります。
②文字から曲になる聴き方。
例えば 20 曲目「 T 」、15 曲目「 O 」、11 曲目「 K 」、25 曲目「 Y 」、15 曲目「 O 」の順番で再生しますと「 Tokyo 」という曲になります。
③ランダム再生。
アルバムを複数台の CD プレイヤーでランダム再生させて、CD プレイヤー同士が、あたかもセッションしているようになります。
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特に「③ランダム再生」ですが、CD プレイヤーは mp3 のランダム再生と違い、曲と曲の間に曲のサーチ時間が生まれますので、mp3 では再現できないセッション感が生まれます。
以上ような方法で録音物の剥製化から、私なりに音を開放する作品に致しました。
■今年の 1 月には、CD「Title fit I felt it」の曲をライブで上演されたようですが、ライブではどのような形態で演奏されたのでしょうか。また、SoundCloud なども含めた録音再生メディアに記録された作品と、ライブでの演奏とのあいだにはどのようなアプローチの違いがございますでしょうか?
録音再生メディアに関しましては、今回の CD も3つの試聴方法がありますが、基本的には録音されたものが時間軸にそって順番に流れてきます。
ライブ演奏では私が CDJ を使いましてその場でリアルタイムで作品をコラージュして行くことにより、ライブ演奏そのものがリアルタイムで行われるリミックス作品であり、リアルタイムで行われる録音物の剥製化からの音の解放になります。
ちなみに今回の作品が 97 トラックある理由は、文字数が 97 文字あるので 97 トラックですが、他の理由としましては、リアルタイムで様々な形のコラージュ作品にするためのライブ演奏の事も考えまして、なるべくトラック数を多い作品をと思い、私の 1st CD「 Title fit I felt it 」は 97 トラックになりました。
■今後のご活動の予定についてお話しいただけますか。
6/9 に東京の七針で舞踏家であり音楽家の山田有浩さんの舞踏のライブに音で参加します。
5/11 にも山田有浩さんの踊りに山田さんが製作した音をリアルタイムで編集して参加しましたが、6月のライブは、5月よりも山田さんの空間を活かすような音にしようと考えております。
それと私自身まだ1枚目の CD を出したばかりですが、既に6枚目のアルバム分のコンセプトがありまして現在2枚目と3枚目の CD 製作を同時に開始しております。
今回リリースしました CD「 Title fit I felt it 」も、6月のライブも次のアルバムも皆さんご興味もっていただけるように今後も頑張ってまいります。
最後になりましたが、川崎様、日本電子音楽協会の皆様 今回は貴重なインタビューの機会本当にありがとうございます。
■ますますのご活躍を期待しています。どうもありがとうございました!
■お知らせ
「JSEM 電子音楽カレンダー 今月のピックアップ」は、2016 年 7 月で2周年となります。これを期に「今月のピックアップ」は終了することといたします。あと2ヶ月ほどではございますが、自薦、他薦を問わず、インタビューなどのご希望がございましたら、川崎までお知らせください! どうぞよろしくお願い申し上げます。
■お知らせ その2
委細さんのご厚意により、 CD「委細昌嗣 Title fit I felt it」を2名さまにプレゼントできることになりました。ご希望の方は、2016 年 5 月 31 日までに、川崎までお知らせください。抽選の上、CD をプレゼントいたします。