JSEM電子音楽カレンダー/2015年4月のピックアップ

 

JSEM電子音楽カレンダーでは、担当の川崎弘二が、カレンダーに掲載されている各種イベントを「今月のピックアップ」として月イチでご紹介しております。

2015年4月の「ピックアップ」はちょっと趣向を変え、2014年4月からベルリンに滞在されているサウンド・アーティストのニシジマ・アツシさんに、電子メールでお話しをお伺いいたしました。

 

nishijima

 

■ニシジマさんは、文化庁の「平成25年度 新進芸術家海外研修制度」によって1年間ベルリンに滞在されています。この制度に応募された経緯などお話しいただけますか。

2007年にスタートしたプロジェクト“John Cage 100th Anniversary Countdown Event 2007 – 2012” も、多くの支援者のおかげで終えることができました。2007年~2012年の間に6回の公演とワークショップ等も行い、それ以外に自分の展覧会活動も並行して行っていたので、少し一休みして充電しようと思って応募しました。現在までも短期のレジデンスプログラムには何度も参加したことはありましたが、1年間も滞在できてとてもありがたかったですね。

 

■ベルリンではどのような生活をされておられたのかお話しいただけますか。

焦って特に何かをしよう、調査しようなどという気もなくて、春、夏、秋は自転車で街中をまわって、人々の暮らしを眺めていました。季節がいい時期の夕暮れ時は、老若男女多くの人が、川縁でビールを片手に談笑している風景をよく見ました。僕もクロイツベルグで借りていたスタジオの近所の川に行って、日暮れまでよくビールを飲んでましたね。

また、ベルリンには至る所に公園があって、緑も多く森の中を散歩したり、読書もよくしました。公園で特に印象に残っているのは子供の遊具で、デザインはかわいいものもたくさんあるのですが、いずれもダイナミックでワイルドなんです。例えばブランコにしても支柱の高さが高く、振り幅が大きくて最大時には大人の身長を軽く越えるくらいの高さまで振れる。日本では考えられないサイズなんです。

大人が乗っても怖いくらいのものが設置してあるのですが、ブランコの下には木屑のようなクッションが安全のために敷いてあって、親も常に付いて子供に安全を指導している。日本だと、子供だけで遊んでもケガをしないように最初から安全で小さなブランコにしてあって、クッションなど管理の手間になるようなものは設置されていないことが多いですよね。ベルリンでは、自由・享楽と同時に責任(自己・利用者)も子供の頃から親子で学んでいるような気がしました。ベルリンで行われる大きなイベントやフリーマーケット等は、その延長線上で可能にしているのだろうなとも思いました。

 

■2014年8月には足立智美さんや森本誠士さんらと、ベルリンのN. K. というスペースで「Kyoto Protocol: Experiments in Art & Technology III」というコンサートを開催されています。また、2014年12月にはミュンヘンのAkademie der Bildenden Künsteにて「EXPERIMENTELLE MUSIK 2014」というコンサートに参加されています。これらのコンサートでどのようなパフォーマンスをされたのか教えていただけますか。

約10年くらい個人のライブ活動は控えていて、美術分野での活動を主にして来ました。ベルリンでも、作品制作を中心に活動する予定でしたが、なかなか環境がうまく整わなかったこともあって、当初は、ドローイングや今後の作品のアイデアなんかをノートにまとめたりしていました。

そうした中、立命館大学教授のマイケル・ライオンズさんに誘っていただき、「Kyoto Protocol: Experiments in Art & Technology III」at N. K. / Berlinに参加させていただきました。ライブスペースということもあって、比較的安定しているコンパクトエフェクター等を使用したフィードバックをコントロールする演奏を行いました。足立さんには「これ何年やっているんですか?」とからかわれましたね。確かに自分でもどれくらい前からやっているかわからないくらい古いシステムでしたね。

「EXPERIMENTELLE MUSIK 2014」at Akademie der Bildenden Künste / Münchenでは、ロウソクの光を音に関連付けたサウンドシステムを使用しました。これもずいぶん昔からやっているのですが、友人曰く「昔の印象とはまったく違ってかなり洗練された。」とのことでした。洗練されたかどうかは、自分ではわかりませんが、現在は予めつくった楽譜にそって行為し、ロウソクの炎をとおして、テーブル上の環境や状況を音としてアウトプットするパフォーマンスをしています。

 

■電子音楽やサウンド・アートに限らず、ここ1年ほどのベルリン滞在において、印象に残ったレクチャーやコンサートなどがございましたらお話しいただけますでしょうか。

残念ながら、今回はそういった機会には出会えませんでしたね。でも、初夏のフランスの田舎町で印象深い体験はしました。
バーゼルのアートフェアを見に行った際、フランス側のMulhouseという小さな街に宿泊していたのですが、ある日、ホテル近くの公園のベンチに腰を下ろしてコーヒーを飲んでいたところ、少し離れた教会の鐘が鳴り始めました。

次第に公園を取り囲む回廊が共鳴し始めて、美しい倍音とうなりを発し、時間が経つにつれてそれがどんどん変化していって、公園に生息する鳥や虫、そして生活音も相俟って、とても素敵なサウンドスケープに出会ったのはいまでも印象に残っていますね。iphoneで録音を試みましたが、上手く録音できませんでした。まさに印象でしか記憶に残っていませんが、とても忘れがたい体験でした。

 

■ベルリンにおいて、電子音楽について何らかの新しい動向はございましたでしょうか。

これも残念ながら今回はそういった音楽には出会えませんでしたね。とてもアグレッシブで刺激的な音楽はたくさん出会ったのですが、音楽的な感動となると・・・・。

おそらく、僕の現在の心境や活動にフィットしなかっただけで、ベルリンはサウンドアートのメッカであることには間違いないと思います。

 

■今後のご活動の予定などお話しいただけますでしょうか。

この夏にMies van der Rohe Haus / Berlinにて、友人のUlrike Brand(cellist)と小さなコンサートをするプロジェクトが現在進行中ですが、まだ確定はしていませんね。

何はともあれ、今回の滞在で再び演奏する機会に恵まれたことは、現在の自分にとって良かったと思っています。帰国後も何らかの形で、サウンドパフォーマンスをする機会が持てればと思っています。そして、展覧会活動もこれまで以上にがんばりたいと思っています。

 

■帰国後のご活躍を楽しみにしています。どうもありがとうございました!

 

 

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