JSEM 電子音楽カレンダー/2016 年 7 月のピックアップ 2

 

 

JSEM 電子音楽カレンダーでは、担当の川崎弘二が、カレンダーに掲載されている各種イベントを「今月のピックアップ」として 2014 年 8 月より月イチでご紹介し、2周年を迎える 2016 年 7月に掲載した沼野雄司さんへのインタビューにて最終回を迎えました。(なお、遅れてはおりますが 2016 年 6 月のイベント紹介の掲載も予定しています)

そして、2016 年 5 月に掲載した委細昌嗣さんへのインタビューにおいて「自薦、他薦を問わず、インタビューなどのご希望がございましたら、川崎までお知らせください!」と募集をしたところ、大塚勇樹さんが Molecule Plane という名義により 7 月 10 日にリリースされる CD「Acousticophilia」についての紹介記事をお送りくださいました。

 

Jacket

 

Molecule Plane “Acousticophilia”
Japan / CD / 299 MUSIC / NIKU-9002 / 2016.07.10

1. Jaguarundi (2016)
2. Bringer (2014)
3. Stain (2015)
4. Vixen (2016)
5. Ghost Dubbing (2014)
6. Maeve (reprise) (2014)
7. Arcane (2015)
8. Woundwort (2016)
9. Gush (2012)

http://www.rec-lab.com/#!niku-9002/jkkp8

 

 

皆さんこんにちは、大塚です。三回目の登場となりますが、この電子音楽カレンダーが惜しくも終了してしまうということで、最後に「今度リリースするアルバムの話をさせてもらえませんか?」と川崎さんにお願いし、今回の機会を頂いた次第です。しばらくの間、おつきあいくださいませ。

 

ということで早速本題に移りますが、7/10 (日) に電子音楽のアルバムをリリースします。現在、Amazon、楽天、Yahoo! ショッピングなどのオンライン通販や、タワーレコードHMV などの大手 CD ショップでご予約頂けるほか、私個人の WEB ショップ「V.V.A.V.」でもご購入頂けます。Amazon プライム会員の方や各ショップのポイントカードをお持ちの方はそれぞれのお店で、サイン付きで欲しいという方は「V.V.A.V.」で手に取って頂ければと思います。

 

さて、アルバム自体はどんなものかと言いますと、これまでのインタビューでもお話しさせて頂いていた「Molecule Plane」(モレキュル・プレーン=分子鉋)という「音色と音響の可能性の追求」に特化したプロジェクト名義で、タイトルは『Acousticophilia』(アコースティコフィリア)といいます。Molecule Plane というプロジェクトの在り方自体は 2015 年 10 月のピックアップの「CCMC 2015」に関する部分でお話しさせて頂いたことがそれに当たります。

リリースするのは、コジマ録音でエンジニアとしてキャリアを積んだのち独立したという大学時代の友人が立ち上げた「299 MUSIC」(ニクキュー・ミュージック)というレーベルからです。私のリリースはレーベルとしては第二弾なのですが、私の前がピアノによる現代音楽の委嘱作品、私の後がメシアンのピアノ作品集ということで、最初は自分の音楽の方向性とはちょっと違うかなとも思ったのですが、その入り乱れた感じがドイツの ECM レコードみたいで面白いなと思い、またそれぐらいビッグになってほしいという願いも込めて、この度のリリースのオファーを受けました。

とはいうものの、元々は 2014 年に Molecule Plane をスタートした時点からアルバムを作ることは考えていました。つまり、「CCMC 2014」以降にアクースマティックのコンサートなどで発表した作品というのは、実は一貫して Molecule Plane の理念の下で作られたものであり、いずれアルバムという形でコンパイルされることをあらかじめ想定した上で制作されています。なので、リリースのオファーはまさには渡りに船だったと言えるのですが。

そうして 2014 年に制作をスタートし、このアルバムは断続的ではありながらも2年掛かりで作られたということになりますが、もちろん制作時期がそれぞれ異なるため、アルバムの曲が全て出揃った時点で全体の流れに沿うように全てアレンジやミックスをやり直しました。それに伴いタイトルを変更した曲も一部あります。

 

Molecule Plane として制作した音楽というのは、構造的には極めて単純であると言えます。レコーダーを用いて得られた環境音や何台ものアナログ・シンセサイザーの音を 10 分、20 分、1時間とひたすら長回しで録ったもの(それもマイキングやツマミのセッティングを追い込んでフィックスしたままで)をコンピュータに取り込み、Cycling ’74 MaxNative Instruments Reaktor、その他 DAW 上のプラグインやオーディオ編集で更にエディットします。

そうして徹底的に作り込んだ膨大な量の持続的な音色をレイヤーし、それによって生じる響きから更に新たな音色や音響をコンピュータ上で生成し、また重ね……といったことを繰り返し、そしてそれらの音色が音楽の中で持続からの切断/置換される瞬間の気持ち良さ、繊細なノイズによるサウンドスケープの美しさ……というようなもので成立しています。

加えて、音で何かのテーマを表現した、何かをモチーフに作り込んだということは一切なく、そういった要素は削ぎ落とし、あくまで「モノ」としてのマテリアルが持つテクスチャーやディテールへのフェティシズムが根底にあります。

また、そのように音をレイヤーするという意味においては電子音のクラスターによるドローンやアンビエントであるともいえるのかも知れませんが、では何故そこまでたくさんの音をレイヤーするのかという点についてもお話しします。

エンヤというヴォーカリストは皆さんご存知かと思いますが、彼女の作品ではダビングしたヴォーカルのトラックを 150 〜 200 も並べるそうです。数十トラック重ねた段階で一度位相が悪くなり音のヌケがどんどん悪くなるものの、100 トラックを超えた辺りから再び音がヌケてきて、最終的にあの独特の分厚く幽玄な雰囲気の質感を持った声になるそうです。

その発想の着眼点を面白いと思った時に、「じゃあ自分ではどうするか?」と考えた場合、Molecule Plane では「音を重ねていって位相が狂い出した瞬間」の音のマジックに賭けることにしました。

位相がおかしくなるというのは商業音楽の世界では概ね NG で、その為に低域の処理などに細心の注意が払われています。ですが、そこのコントロール次第では、例えば「低域だけ耳元で鳴っているように聴こえる」とか、「特定の音色だけスピーカーに張り付いたように鳴っている」とか、「スピーカーの外側から音が聴こえる」といった極端な音像の作り方が可能であること、位相のズレを逆に利用し、スピーカーで聴いた時にリスナーが頭の角度や向きを少し変えるだけで音が万華鏡の様に移ろい、特定の音色や帯域がその瞬間耳に飛び込んでくるというギミックを積極的に音楽の中に取り込めること(これも通常のオーディオの世界では絶対に NG です)に気付き、積極的に表現に取り込むことにしました。

このことによって、音色がただのシンセサイザーとそれを加工しただけの音ではなくなり、音響がただのリバーブやディレイによる残響の付加といっただけの枠組みからの脱却が可能となり、そして既存の大半の電子音楽、正しいオーディオの理論からの逸脱という試みに結びついたのではないかと思います。

また、音色そのものもリバーブのかかったアトモスフィアーなシンセパッドをコードでフワーッと鳴らしたようなものではなく、むしろ非常に主張の強い尖った音色ばかりです。だからといってハーシュノイズがグシャーッと鳴っているような一辺倒な音楽でもありませんが。故に普通のドローンやアンビエントとは違い、何かのシーンのバックグラウンドに馴染むものでも、ましてゆったりと癒されるといったようなことも考えていません(リスナーがどう捉えるかは別ですが)。

海外のシーンにもこのような音楽はありますが、どちらかというとモジュラーシンセサイザーやサンプラーなどで一発録りをしたようなものも多く、恐らくここまで膨大に音色をレイヤーして作り込んでいるものは他にないと思います。

と、同時に「癒し」というのは時に物凄くヴァイオレンスなものではないかという個人的な考えもあり、聴くと必ずどれかの音色に耳を奪われ続けるし、またそうであってほしいという聴覚への支配的な振る舞いや挑発をリスナーに対して試みる音楽に仕上げたつもりです。

 

そして前回前々回のインタビューと今回のお話で何となくお分かり頂けたかと思いますが、Molecule Plane のアティチュードとして、そこで作られる音楽とは厳格なエクリチュールあるいはテクノロジー、音響技術のためのものではなく、基本的に「反抗」と「逸脱」のためのものです。その点において、まさに「ドローン・パンク」「アンビエント・パンク」と呼べる音楽が作れたのではないかという自負だけはあります。

ここにあるのは、メロディーやリズムもなく、物語性、ナラティブなものといった要素も排除され、あるのは持続的な音色のカタマリとそれらが切断された欠片だけで、音色そのものにのみ快感原則を見出だし、音楽として射出成形したというものです。

しかし、そういった異質な響きを以てでも強引にでも何かと対峙しようとする、ストラグルしようとする「意志の音楽」でもあると私は思っています。それが最近話題の「音楽に政治を持ち込むな」という話と関係あるかと言われると私にも分かりませんが、敢えて言うなら私自身の生き方とか在り方に関わってくる話だと思います。と同時に、聴いてくださった方の人生のどこかの瞬間で、何かを鼓舞したり駆り立ててくれたり、もしくは今までに聴いたことのない未知の音響体験として作用するような、そんな一枚になれば幸いです。

 

最後に、今回のアルバムを制作する上で参考にしたり影響を受けたりしたアーティストのアルバムもいくつか紹介させて頂きます。それらと一緒に、私のアルバムの試聴用クロスフェード音源も載せておきます。これらの音楽と共に私のアルバムも手に取って楽しんで頂ければ嬉しく思います。

なお、8月に大阪にある environment 0g というクラブでアルバムのリリースイベントの開催を予定しておりますので、詳細が決まり次第お知らせいたします。そちらへも是非遊びに来て頂けたらと思います。

 

……当初考えていたよりも随分長文となってしまいました。最後までお読み頂きありがとうございました。

 

Thomas Ankersmit
live at Audiograft 2013

Figueroa Terrace – Figueroa Terrace
Figueroa Terrace

 

Carl Michael von Hausswolff
Squared – Circulating over Square Waters (ZKM Kubus)
Squared

 

Bruce Gilbert and BAW
Diluvial – The Void
Diluvial (feat. Bruce Gilbert, A David Crawforth & Naomi Siderfin)

 

i8u
Surface Tension – Water 72.86
Surface Tension

 

Tim Hecker
Love Streams – Castrati Stack
Love Streams

 

Kevin Parks / Vanessa Rossetto
Severe Liberties – Seeing as Little as Possible
Severe Liberties

 

shotahirama
Stiff Kittens – One Girl Cookies
Stiff Kittens

 

BOOM BOOM SATELLITES
EMBRACE – NINE
EMBRACE

 

SHINE LIKE A BILLION SUNS – A HUNDRED SUNS
SHINE LIKE A BILLION SUNS

 

LAY YOUR HANDS ON ME – LAY YOUR HANDS ON ME
LAY YOUR HANDS ON ME

 

Molecule Plane
Acousticophilia (XFD)
Jacket

 

 

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