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5月 13

JSEM電子音楽カレンダー/2015年6月のピックアップ

 

JSEM電子音楽カレンダーでは、担当の川崎弘二が、カレンダーに掲載されている各種イベントを「今月のピックアップ」として月イチでご紹介しております。

2015年6月に開催されるイベントから、今回は5月16日(土)から6月21日(日)にかけて、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAにて開催される「マテリアライジング III 物質と情報とそのあいだ」をピックアップいたします。この展覧会にご出品されている城 一裕さんに電子メールでお話しをお伺いしました。

 

 

マテリアライジング III 物質と情報とそのあいだ

日 程:2015年5月16日(土)〜6月21日(日)
会 場:京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
休館日:月曜日
入場料:無 料

出展者:
・hclab.
・加藤大直 + 佐々木崇人
・木内俊克 + 砂山太一 + 永田康祐
・重松あゆみ
・城 一裕
・鈴木雄貴
・舘 知宏
・谷口暁彦
・田部井 勝
・dot architects × 水野大二郎 × Fablab 北加賀屋
・中原浩大
・久門剛史
・松井 茂 + 仲井朋子
・渡邉朋也
・山本 悠

http://materializing.org/15_about/

 

■2014年11月に発行された「Neural」誌には、「Au Clair de la Lune – For Édouard-Léon Scott and László Moholy-Nagy (1860/1923/2014)」というタイトルの紙製のレコードが封入されています。こちらの紙製のレコードは、どのような過程を経て製作されたのか、また、同月発行の「Leonardo Music Journal」誌に掲載された論文「The Role of Mechanical Reproduction in (What Was Formerly Known as) the Record in the Age of Personal Fabrication」との関連についてお話しいただけますか。

このレコードは,ここ数年行っている,A record without (or with) prior acoustic information − 予め吹きこまれた音響のない(もしくはある)レコード,という一連の試みから生まれたものです.一般的なレコードとは異なり,音源(吹きこまれた音響)の代わりに Adobe Illustrator 上で直接波形を描き,それをレーザーカッターやビニールカッターなどの機材を用いて,紙や木,アクリルなど様々な素材の上に刻んでいます.詳しい作り方はWebで公開*しているのでそちらをご覧ください.

*「紙のレコード」の作り方 −予め吹き込むべき音響のないレコード編−
http://www.slideshare.net/jojporg/131222-papaerecordjp

「Au Clair de la Lune – For Édouard-Léon Scott and László Moholy-Nagy (1860/1923/2014)」に関しては,友人でもある「Neural」誌の編集長 Alessandro Ludovico が来日した際に,この試みの幾つかの実験結果を見せたところ,ぜひこれを元に定期購読者向けの付録を作りたい,とのことで作成しました.

この曲(邦題:月の光に)はご存じの方も多いかと思いますが,現時点では世界最古の録音と言われているものでもあり,今回はこのフランス民謡のスコアから各音の周波数を割り出し,その値を元に波形を描画しています.なお,タイトルはこの曲の録音を記録していた装置,phonotograph の開発者,レオン・スコットと,1923年に発表したエッセイの中で,盤面に直接溝を刻む,というアイデアを提唱していたバウハウスのマイスター,モホリ=ナジ・ラースローにささげたものとなっています.

「Leonardo Music Journal」誌に掲載された論文では,その歴史的な背景を記すとともに,100年以上の歴史を持つ成熟した技術であるレコードと現在のツールとを組み合わせることで可能となったこの試みを,20世紀までの少品種・大量生産から,インターネットを踏まえた多品種・少量生産へと向かう動きであるパーソナル・ファブリケーションと対比させて,その特徴を考察しています.

 

■2015年3月には、九州大学にて開催された「先端芸術音楽創作学会」において、以前から取り組まれてきた「生成音楽ワークショップ」を総括するご発表をされています。今後の「生成音楽ワークショップ」はどのような方向へと展開させて行くのか、ご予定のことなどございますでしょうか。

「生成音楽ワークショップ」は,東京芸大の金子智太郎さん(美学・聴覚文化論)と共に2010年から行っているプロジェクトで,自動的に音を奏でる装置・システムの奏でる音楽を生成音楽,と呼び,その古典的な作品の再現を通じ,この音楽への理解を深めようというものです.

これまで,科研費「挑戦的萌芽研究「生成音楽の体系的理解に向けた音を生み出す構造の分析」(24652029)」の助成を受けて行っていたのですが,今後はここでの試みを先述のレコードを含めた,パーソナル・ファブリケーション以降の資格・聴覚メディアを中心とした芸術表現につなげる研究を,金子さんに加え,先日著書「音響メディア史」(谷口・中川・福田,ナカニシヤ出版,2015)を出版された横浜国大の中川克志さん,さらに現在僕が勤務している情報科学芸術大学院大学[IAMAS]の同僚であり,最近は光と影を用いた各種の作品を発表されているクワクボリョウタさん,グラフィックデザイナーの瀬川 晃さん,そしてこの4月から IAMAS に加わった詩人の松井 茂さん,と共に進めていく予定です.なお,この成果は5月23日から東京初台の NTT インター・コミュニケーションセンター[ICC] オープンスペースで一年に渡り展示する「車輪の再発明」プロジェクトの中で紹介していく予定です.

 

■2015年3月から4月にかけて、神戸アートビレッジセンターにて開催された展覧会「phono/graph 音・文字・グラフィック」に参加されています。こちらの展覧会ではどのように展示に関わられたのでしょうか。

「phono/graph」は2011年に始まった,音,文字,グラフィックの関係性を考えるプロジェクトで,アーティストの藤本由紀夫さんを中心に,八木良太くん,softpad, intextニコール・シュミットさん,鈴木大義くん,というメンバーで構成されています.僕は,先述の「紙のレコード」の作り方をみて声をかけていただき,今回の神戸の展示から参加することになりました.

このプロジェクトは,いわゆるグループ展とは異なり,半年ほど前から毎月ミーティングとその後の打ち上げを繰り返し,その様々な実験の結果と経過を一つの展示として見せる,という形になっています.個別には,これまで個人でやってきた試みを幾つか出した他,自走式のレコード・プレイヤーを改造して制作した121インチのレコードなども展示の一部としています.次回の予定はまだ決まっていませんが,今後もプロジェクトは継続されるはずなので,webサイトを是非ご確認ください.http://www.phonograph.jp/

 

■2015年5月から6月にかけて京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAにて開催される「マテリアライジング III 物質と情報とそのあいだ」展に、どのような作品をご出品されるのか、現時点の構想などお話しいただけますか。

以下,展覧会用に記したエッセイを転載いたします.現段階でもまだ作品を製作中のため出展作品とは内容が異なる可能性もあるのですが,ご来場お待ちしております!

ーーー

一般的にレコードというものは,音楽という情報を物質化したもの[中川, 2015],と位置づけることができるだろう.この物質としてのレコードを強く意識させてくれる試みとしては,複数のレコードを物理的に分割し,その断片を再構成して新たなレコードとして聴く,ミラン・ニザの「ブロークン・ミュージック」(1963−79)やヤン富田の「PREPARED RECORD」(1998)などがある.

一方で,これまでに筆者がおこなってきたコンピュータ上で描いた波形を直接盤面に彫り込み,そこから音響を発生させるという一連の試みでは,音楽ではない情報(ベクトル画像)が様々な素材(マテリアル)を介して物質化され,そこから音が生じる.ここで描かれる波形は,サイン波に近似しているため(具体的には Adobe Illustrator の効果>パスの変形>ジグザグ>滑らかに),溝の上を針が進むことでいわゆる電子音のような音が聴こえることとなるが,実際にはあくまでも機械的に刻まれた凹凸を針がなぞっているだけであり,そこではシンセサイザーでみられるような電子的な音の生成は一切行われていない(コンピュータで作られている,という意味においてデジタルサウンド,ということは出来る).

これまでの実践の中では,音響を発生させるための装置として,現在でも幅広く使われているレコード・プレイヤーを用いてきた.塩化ビニールを素材とした通常のレコードを再生するために作られたこの装置を利用して,紙や木,アクリルといった多様な素材(マテリアル)にレーザー光やカッターで刻んだ溝から音を奏でている.ここでは(音楽ではない)情報を物質化する上で,素材という多種多様な道筋があり,その選択は作り手に委ねられてしまう(ただし,塩化ビニールはレーザー光によりダイオキシンを発生するため,多くの場合利用を禁止されてしまうのだが).

他方,今回の出展作品では,電子音として聴こえる音を電気の力を借りずに奏でるべく,電気的な増幅なしに機械的に音を拡声する蓄音器を用いることとした.結果,これまでに使用してきたほぼすべての素材(マテリアル)は,その針圧(レコード・プレイヤーが数 g 程度であるのに対して,蓄音器は 100g 以上)に耐えることが出来ず,針と素材の表面との摩擦によって動きが止まってしまうということとなった.現段階(5月初頭)では,まだ最終的な解法(マテリアライジング?)を見出だせていないのだが,情報を物質化する道筋の選択に,恣意性ではなく必然性をもたらしてくれるこの制約を,いまは肯定的に受け止めている.

参考文献
中川克志,第15章「音響メディアの使い方 − 音響技術史を逆照射するレコード」,音響メディア史,ナカニシヤ出版,pp. 281−302,2015.

 

 

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