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10月 30

JSEM電子音楽カレンダー/2015年11月のピックアップ その2

 

JSEM電子音楽カレンダーでは、担当の川崎弘二が、カレンダーに掲載されている各種イベントを「今月のピックアップ」として月イチでご紹介しております。

2015 年 11 月に開催されるイベントから、今月は「その2」として、11 月から 12 月にかけてブリュッセルにて開催される「Ars Musica 2015」もピックアップいたします。こちらの演奏会シーズンにて「ヴィオラと電子音響のための『奇想曲』」の改作が初演され、また、Destellos Composition Competition 2015 のミクスト作品部門にて「室内オーケストラと電子音響のための『ソリトン』」によって佳作 (1位なし3位)を受賞された松宮圭太さんに電子メールでお話しをお伺いしました。

 

マクシム・デセール演奏会 @アルス・ムジカ2015、ブリュッセル

 

Ars Musica 2015 Maxime Desert
日 程:2015 年 11 月 10 日 (火) 19:00
会 場:PointCulture Bruxelles(ベルギー)

Krzysztof Penderecki / Cadenza
Elliott Carter / Fragment 4
Cyrille Thoulen / ἐπαıνέω (épaïnéô)
Philippe Hersant / La Pavane
György Ligeti / Hora Lungà, eerste beweging van de sonate
松宮圭太 / ヴィオラと電子音響のための「奇想曲」

Maxime Desert: viola

http://www.arsmusica.be/Ars/nl/concert/maxime-desert/

 

■松宮さんは、2012 年にフランス国立音響音楽研究所の作曲研究課程(IRCAM Cursus1)を修了しておられます。フランスに渡られた経緯、IRCAMでのご研究、IRCAMにおける制作環境やスタッフ、作曲家とのご交流、IRCAMにて制作された「ヴィオラと電子音響のための『奇想曲』」などの作品についてお話しいただけますか。

フランスではまず先にパリ国立高等音楽院作曲科に入学していて、そこの大学院に進学したのと同時に学校の推薦枠から IRCAM での年間の作曲研究課程キュルシュス1に行きました。キュルシュス1は作曲家に対してプログラミングの基礎知識や IRCAM で開発されたツールの使用法などを伝授しながら各々の制作に応用させる目的の教育的な場で、僕と同じ年に研究課程に入った十数名の作曲家は皆、提出した器楽作品のスコアと動機書によって選抜を受けて入っています。

仲間内には、プログラミングや電子音響音楽の制作経験が一切無い人間から、そうした関心を元から持ち制作してきた人間まで様々でした。2011 年から 12 年にかけて在籍していましたが、ミュライユが 1990 年にこの課程を開設した頃からは講義内容も雰囲気も相当変わっていたと思います。2006 年にキュルシュスが1と2に分かれてからは1の方はより教育色、訓練色が強くなってきたと聞いています。

研究生に与えられる制作環境ですが、良かったと感じたことは、申請しさえすれば 24 時間いつでも使える防音スタジオ、定期的に支給される IRCAM の最新ソフトウェア、そして制作のヒントとなる講義内容でした。機材に関してキュルシュス生がアクセスできるものは決して特別なものではなく、YAMAHA のデジタルミキサーや Apple のデスクトップ PC、RME のサウンドカードに DPA のマイク、そして普通に購入できるメーカーの小中型のモニタースピーカーといった、一般的な教育機関や個人でも頑張れば揃えられそうなものでした。

 

キュルシュス1同期達と
キュルシュス1同期達と @ IRCAM 地下

 

キュルシュス1では MAX に関しては基礎から音響合成、コンサートパッチの組み方までを広範に学びましたが、作曲支援ソフト OpenMusic の訓練の比重はそれほど高くありませんでした。楽譜やシーケンサーで音素材を組む作曲行為に近いと直感的に感じたのが OpenMusic だったので、個人的にあれこれ試しては指導教官に質問に行って学びました。

キュルシュス1の修了制作となったヴィオラと電子音響のための『奇想曲』では、パガニーニの奇想曲を見て感じたことから発想を得て、録音物からフィルターしてシャン・ハーモニックを作ってみたり、関数、放物線の動きとシャン・ハーモニックの組み合わせてみて旋律や和声の動きを作ったり、その録音からまた別のシャン・ハーモニックを作ってみたり、音響合成したりを繰り返して素材を集めました。

その際に用いたツールは OpenMusic 上で動く Csound のライブラリだったり Audiosculpt 上でのスペクトル分析だったり、Pro tools 上の編集機能だったりと、その場その場で使いやすいと思うツールをざっくばらんに選んで使っていました。電子音響と器楽が双方向的な関係にある書法を探す、というのがテーマで、研究の方向性としては地味でしたが、その時に模索したことが現在のプロジェクトや仕事に役立っているので、自分の関心を深める機会が与えられて有り難かったと思います。

 

キュルシュス1修了コンサート、ゲネにて @イルカム, エスパース・ド・プロジェクション
キュルシュス1修了演奏会、ゲネにて @ IRCAM,エスパース・ド・プロジェクション

 

■2013 年 10 月には「パリ国立高等音楽院作曲科修了演奏会」において、「室内オーケストラと電子音響のための『ソリトン』」が、ジャン=フィリップ・ヴュルツの指揮、パリ国立高等音楽院オーケストラの演奏によって初演されています。また「ソリトン」は、2015 年度のデステロス作曲コンクールにおいて佳作 (1位なし3位)を受賞されています。『ソリトン』という作品の成立過程やエレクトロニクスの要素について、また、デステロス作曲コンクールについてお教えいただけますか。

『ソリトン』はパリ国立高等音楽院作曲科大学院の修了作品で、IRCAM の研修を終えた翌年、作曲科在籍の最後の年に制作したものでした。先述の『奇想曲』と同様、電子音響と器楽の書法の関連を焦点に制作に取り掛かりました。電子音響と器楽のためのミクスト作品を作る際にいつも感じることですが、スピーカーから鳴る音と楽器から鳴る音、いずれも音波として客席に伝わるものながら、双方の質感や存在感があり、その違いにどう折り合いと付けるかという問題意識があり、その対応として、楽器音を増幅したりリバーブ処理したりといった方法以外にどういうアプローチができるだろうということを考えていた際にぼんやりと浮かんだのが、音波にもソリトンみたいな現象があってもいいよなぁという思いつきでした。

ソリトンとは川やプール等で発生する自然現象で、波と波が干渉することなく、消し合わずに進行する現象として知っていました。スピーカーから鳴る音と楽器から鳴る音が寄り添いながら進む音波となる、そんなイメージから、スピーカー群とアンサンブル群の両方を二群に分けて対話させるアイディア、騒音から楽音へ、楽音から騒音へという波のフィギュアのアイディア、そのフィギュアを形式に応用するというアイディアが浮かび、オーケストレーションの中に溶けるような音響を意識して電子音響パートをまとめました。

 

室内オーケストラと電子音響のための『ソリトン』初演@パリ国立高等音楽院
室内オーケストラと電子音響のための『ソリトン』初演時 @ パリ国立高等音楽院

 

デステロス作曲コンクールは、アルゼンチンで 2007 年よりデステロス・ファンデーションによって開催されている作曲コンクールです。電子音響音楽を対象としたA部門とミクスト作品を対象としたB部門があります。年齢制限が設定されておらず、過去には審査員の間違いではないかという大御所が応募、入選していたりするので、新人向けなのかそうでないのかわからなかったのですが、B部門に『ソリトン』を出品してみたところ佳作という評価を頂きました。

オーガナイザーのエルザ・ジュステル氏から審査員達の評価、良かった点と課題点を伝えて頂き、励みになりました。かつて習っていた電子音楽のルイス・ナオン先生とプログラミングのトム・メイス先生に報告したところ、僕が連絡する前に結果を見て知っていたようで、驚きました。正直、パリ音楽院の作曲科方面ではあまり知られていないコンクールだと思っていたためです。

 

『ソリトン』スコア、楽器・機材配置図
『ソリトン』スコア、楽器・機材配置図

 

■2015 年 9 月 11 日 (金) ~ 19 日 (土) にかけて大駱駝艦・壺中天(東京)にて開催された「阿修羅」のために、松宮さんは電子音楽を制作されています。こちらの舞台音楽を担当されることになった経緯、今回上演された電子音楽についてお話しいただけますか。

大駱駝艦には古い友人が在籍している関係で昔から何度か公演を見に行っており、パリに来る前にはダンサー達と即興演奏で舞台を共にする機会が時々ありました。今回の舞台で演出・主演をされた鉾久奈緒美さんとは、何年か前にパリでお会いした時に僕の過去の音楽を聴いて頂いていた経緯があり、その時の印象から、今回の制作依頼をして下さいました。

事前にコンセプトイメージを受け取っていたので、それを元に各々のシーンの核になる音楽を送っていましたが、8月末から練習に参加してみると、どんどん洗練されていく舞台の方に合わせて別のタイプの音楽が必要になったり曲の長さの問題が出てきたりして、音楽制作も初演ギリギリまで粘らせてもらうことになりました。ダンサーが踊れる音楽、そして尺の伸縮に対応できる音楽を制作するというのが課題だったという感じですが、周期性とヴァリエーションの展開でこれまでになかった発想を得られる良い機会になりました。

 

大駱駝艦壺中天公演『阿修羅』フライヤー
大駱駝艦壺中天公演『阿修羅』フライヤー

 

大駱駝艦『阿修羅』舞台、主演の鉾久奈緒美氏@壺中天、吉祥寺
舞台の様子(主演の鉾久奈緒美氏)@壺中天、吉祥寺

 

ご略歴には、「2014 年以降はミカエル・レヴィナスの元でオペラ『星の王子様』(オペラ・ド・ロザンヌ委嘱)、ピアノとMIDIキーボードのための『レ・デジナンス』(イルカム, メシアン音楽祭委嘱)、オーケストラのための『橋の秘密』(オーケストラ・バス=ノルマンディー委嘱)、オペラ『変身』改作(イルカム、アンサンブル・ル・バルコン委嘱)等の制作助手を務める」とあります。松宮さんの手掛けておられるレヴィナスの制作助手のお仕事についてお教えいただけますか。

レヴィナス先生の助手としての仕事は、彼のアトリエで彼と一緒にピアノで即興をしたり、求めに応じて機材やアプリケーションをセッティングしたり、指示に従って楽譜の記入やオーケストレーション作業、またはシーケンサー上で作業をしたり、初演時の演奏家や IRCAM のエンジニア等のやりとりにおいて秘書的な役割をしたり、浄書の関係で出版社との取次を行ったりと、まぁキリがありません(笑)。ですが結局、先生の話を聞くのが一番の仕事だと思っています。レヴィナスが退官する直前に分析科で師事していたので、その師弟関係の延長で仕事をしている感じです。

 

レヴィナスと彼のアトリエにて、オペラ『星の王子さま』完成直後
レヴィナスと彼のアトリエにて、オペラ『星の王子さま』完成直後

 

オペラ『変身』改作初演リハーサルにて@アテネ劇場
オペラ『変身』改作初演リハーサルにて@アテネ劇場

 

■2015年 11 月にはブリュッセルで開催される Ars Musica 2015 にて「ヴィオラと電子音響のための『奇想曲』」の改作が初演され、来年はボルドーのアンサンブル・プロクシマサントゥーリのためにギターと電子音響のための新作も初演されるようです。現在の電子音楽の制作環境や、今後、初演が予定されるエレクトロニクスを使用した作品についてお話しいただけますか。

アルスムジカ 2015 では、ヴィオラ奏者のマクシム・デセールの依頼によって『奇想曲』の電子音響パートを改定し、初演される予定です。ターナ・ヴィオラという彼のちょっと変わったハイブリッド楽器のために、電子音響部分のバランスやリアルタイムの処理などを操作しています。今後の予定として、マクシムもメンバーであるターナ弦楽四重奏団と彼らのハイブリッド楽器のために新作を書くプランがあり、その下調べを兼ねたプロジェクトです。

プロクシマサントゥーリのプロジェクトや来年4月のバルセロナにて開催されるフェスティバル・ミクスチュールへの参加は、僕自身も創設者として参加するアンサンブル・ルガールの活動の一環で、自作を発表する場合もあれば音響スタッフとして関わることもあります。現在、モロッコ、フェズで行われるメンバーの作品発表のために録音と映像の仕事で現地のアンスティチュ・フランセで滞在していますが(10 月 27 日)、これもそういった活動の一環です。プロクシマサントゥーリのプロジェクトでもハイブリッド楽器のギターを使用する予定で、電子音響と器楽がより自然に関係する音響を模索しているところです。

 

アンサンブル・ルガール演奏会準備の様子@パリ・ビエット教会
ルガール演奏会準備の様子 @ パリ・ビエット教会

 

アンサンブル・ルガールのメンバー達と@ストゥディオ・ルガール・シーニュ、パリ
ルガールの作曲家達と @ ストゥディオ・ル・ルガール・ド・シーニュ

 

■今後のご活躍を期待しております。この度はどうもありがとうございました!

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